スゴ乗越小屋の生い立ちをご紹介します。
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「スゴ乗越」という地名の由来について。
「スゴ乗越」(すごのっこし)という名前はどこから名づけられたのか、「すご」という言葉の意味も不明で私が小屋番時代はお客さんからよく意味や由来を聞かれて困っていました。当時、古くからの小屋の関係者からは、「黒部の谷に入っていた信州の熊撃ち達が、黒部の谷底から見えやすい山に集まって人数合わせをしていたため、この山を数合(すごう)と呼んだ」ことが由来らしい、と聞いていました。その後、オーナーである五十嶋博文氏の兄で日本山岳会の五十嶋一晃氏が太郎平50周年の記念誌別冊をまとめることになり、この中で「スゴ乗越」の由来について調べています。とても詳しく調べているのですが、とても紹介しきれないので一部を抜粋して引用させていただきます。
数河・数合・スゴの由来については、昭和32年にスゴ乗越小屋を再開した時に、芦峅寺のガイドたち数人から断片的に伝説として聞いていた。略 芦峅寺の人々は昔から猟が盛んで、昭和初期までは狩猟専業の人がおり、春山には真川やヌクイ谷へ熊やカモシカを捕りに毎春出かけた。略 奥山の春の熊猟は巻猟(巻き狩り)という猟法で、芦峅ではオイアゲと言っている。これは大人数で一つの谷を取り囲み、勢子(せいし)が熊を追い出し、尾根などで待つ射手がしとめる猟法である。一つの谷に何人もバラバラになって役割を果たしているので、猟が一段落したところでスゴの頭(ずこ)を目安に落ち合う場所を決め、そこで猟師仲間の数や獲物の数合わせを行った。スゴの頭は地形状あるいは気象上見通しが良い山なので、目安にする山としては非常にいいところであった。以前は山の名前が違っていたようであるが、このことから数合(すごう)(数合わせ)と呼ぶようになり、その後漢字で書くよりも片仮名で書くほうが面倒ではなくスゴウあるいはスゴと書くようになった、ということである。
山名・地名には地元の住民がつけた名は少なくない。それには文字で書くよりもまず言葉として名をつける。その後に漢字を当てるものが多い。ただしスゴに関しては数河や数合という漢字が重複して使われていた時期があり、地元の猟師はカタカナにしてしまったに違いない。スゴ谷の黒部側にあるヌクイ谷は水温が温かい、つまり越中弁でいう「ぬくい」ことから名が付いた温谷(ぬくいだん)であった。それをヌクイとカタカナで書いたことから、今ではヌクイ谷になっている。これと同じように猟師が数合をスゴウと書いたことからすごになったに違いない。
また、自然地理学では山谷の地名は、山からはじまった名は少なく、どちらかといえば、まず谷に名が付けられ、谷の名に導かれて山の名ができたと説いている。数合(すご)谷の源頭の山を数合山( 現・越中沢岳)、その手前にある山を奥数合山(現・スゴの頭)とも呼んでいたのは、その一例である。奥数合山とは立山から見て奥にあるということであろう。
以上のように五十嶋一晃氏は述べています。
引用・参考文献:太郎平小屋50年誌 別冊 「岳は日に五たび色がかわる」2004年11月 五十嶋一晃
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